退職者に企業型DCの掛金は返してもらえる?勤続3年未満・懲戒解雇の扱い
結論(この記事で分かること) 企業型DCで一度拠出した掛金は、懲戒解雇であっても会社が減額・没収することはできません。唯一の例外は、規約に定めた場合に、勤続3年未満で資格を喪失した人の資産から「事業主掛金の額」を上限に会社へ返還させる「事業主返還」です(確定拠出年金法第3条第3項第10号)。懲戒時の減額・不支給を行いたい場合は、退職一時金など別の制度で手当てする必要があります。
企業型DCの導入支援を専門とする株式会社日本企業型確定拠出年金センター(1,300社以上の導入実績)が解説します。この記事では、DC資産を会社に戻せるケースと戻せないケース、退職一時金との違いを解説します。
この記事の監修
株式会社日本企業型確定拠出年金センター
執行役員 企業型DC導入支援グループマネージャー
石黒充顕
- DCプランナー2級
- AFP(2級ファイナンシャル・プランニング技能士)
- 企業年金管理士
- 確定拠出年金ガイド(SBI Benefit Systems認定資格)
- 情報セキュリティマネジメント試験合格
- 知的財産管理技能検定3級
- グーグルデジタルワークショップ修了
- 給与計算実務能力検定2級
日本企業型確定拠出年金センターの立ち上げから事業化に関わり、自身も400社以上の企業に企業型DCを導入している。商工会議所や工事組合をはじめ多数の税理士法人で職員向け及び顧客向けにセミナーを実施している。
自身の出演するYouTube『DCチャンネル』は専門チャンネルでありながら1万人を超える登録者を誇っている。
▶DCチャンネルはこちら
https://www.youtube.com/@ndc-center
NewsPicksやヒロ税理士、マキノヤ先生など動画出演も多数している。

結論:DCの資産は「個人の持分」なので没収できない
企業型DCの掛金は、拠出した時点で従業員個人の持分になり、懲戒解雇を理由に会社が取り戻すことはできません。
厚生労働省の「確定拠出年金Q&A」(No.77)は、勤続3年以上の懲戒解雇でも返還が認められない理由として「DCは一旦個人に出されたものは、個人の持分として運用される年金制度であり、企業における懲戒とは別のもの」と説明しています。また給付を受ける権利は、譲渡・担保提供・差押えが原則禁止されています(同法第32条)。

このセクションのポイント
- 拠出済みの掛金は従業員の持分で、懲戒解雇でも没収できない
- 厚労省Q&A No.77が「懲戒とは別のもの」と明示
- 会社に戻せるのは、規約で定めた「勤続3年未満」の事業主返還だけ
例外「事業主返還」と退職一時金との違い
事業主返還とは?どんな場合に使えるか?
事業主返還とは、勤続3年未満で企業型DCの加入者資格を喪失した人の資産のうち、事業主掛金相当分の全部または一部を会社に返還させる仕組みです。規約に返還資産額の算定方法を定めた場合に限り実施できます(確定拠出年金法第3条第3項第10号)。

実務上のポイントは次のとおりです。
| 項目 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 対象期間 | 制度加入期間ではなく「勤続期間(使用された期間)」が3年未満 | 厚労省Q&A No.76 |
| 返還額の上限 | 会社が拠出した事業主掛金の額。返還日の資産額がそれより少なければ資産額 | 施行令第2条 |
| 対象外の資産 | 加入者掛金(マッチング拠出)や、前職等から移換された資産 | 施行令第2条、Q&A No.78 |
| 対象外の喪失事由 | 死亡、障害給付金の受給権者、老齢給付金の受給権取得など | 施行令第2条各号 |
| 前提 | 規約に定めがあること(後から個別に請求はできない) | 法第3条第3項第10号 |
つまり、運用で増えた部分まで回収することはできず、運用で減っていれば減った後の額までしか戻りません。返還の定めは導入時に規約へ入れておく必要があり、定めがなければ勤続3年未満でも返還は受けられません。
退職一時金なら懲戒解雇時に減額できるのか?
退職一時金(社内準備の退職金)は、退職金規程に定めておけば懲戒解雇時の不支給・減額を設計できる点がDCと大きく異なります。ただし、実際に全額不支給とできるかは、非違行為の程度などに照らして個別に判断されるため、規程があれば必ず認められるわけではありません。

| 比較項目 | 企業型DC | 退職一時金(社内準備) |
|---|---|---|
| 懲戒解雇時の減額・没収 | 不可 | 規程に定めれば設計可能(有効性は個別判断) |
| 会社に戻せる例外 | 勤続3年未満の事業主返還(規約に定めた場合) | ― |
| 資産の管理 | 会社の外(資産管理機関)で個人別に管理 | 会社の内部資金 |
懲戒時の扱いを重視する場合は、DCと退職一時金を併用し、「DC部分は確実に積み上がる」「一時金部分は規程で減額条項を設ける」という役割分担にする方法もあります。規程の条文や不利益変更の検討は、提携する社会保険労務士法人とうかいと連携して対応します。
このセクションのポイント
- 事業主返還の上限は「事業主掛金の額」(資産額が少なければ資産額)
- 加入者掛金・移換資産・死亡等の場合は返還の対象外
- 懲戒時の減額は退職一時金側の規程で設計する
NDCセンターからのアドバイス
- 導入時に事業主返還の要否を決める:早期離職が多い業種では、規約に勤続3年未満の返還を定めておくことを検討します。
- 従業員への説明をそろえる:「3年未満は会社に戻る場合がある」「3年以上は懲戒でも本人のもの」と導入説明会で明確に伝えます。
- 退職金規程との整合を確認する:退職一時金の懲戒条項がDC移行後も必要か、規程全体を見直します。

このセクションのポイント
- 返還の定めは導入時に規約へ入れる
- 3年の区切りを従業員に明確に説明する
- 懲戒条項は退職一時金側で整理する
よくある質問(FAQ)
Q1. 懲戒解雇した社員の企業型DCは没収できますか? いいえ、できません。勤続3年以上であれば、懲戒解雇でも資産は本人のものです。勤続3年未満で規約に事業主返還の定めがある場合に限り、事業主掛金の額を上限に返還を受けられます。

Q2. 勤続3年未満なら必ず返還されますか? いいえ。規約に返還資産額の算定方法を定めている場合に限られます。また死亡や障害給付金の受給権者となった場合などは返還の対象外です。
Q3. 運用で増えた分も会社に戻りますか? いいえ。返還の上限は会社が拠出した事業主掛金の額です。運用で資産が減っている場合は、減った後の資産額が上限になります。
Q4. 返還されなかった資産は退職者がすぐ受け取れますか? 原則として受け取れません。企業型DCは60歳以降の受取が原則で、脱退一時金には別途要件があります。詳しくは脱退一時金の条件をご覧ください。
まとめ
企業型DCの資産は拠出した時点で従業員の持分となり、懲戒解雇でも没収できません。会社に戻せるのは、規約に定めた勤続3年未満の事業主返還(上限は事業主掛金の額)だけです。規約設計や退職金規程との組み合わせは、株式会社日本企業型確定拠出年金センターの経営者向けセミナーで詳しくご案内していますので、お気軽にお申し込みください。

出典
- 確定拠出年金法(第3条第3項第10号・第11条・第32条)厚生労働省法令等データベース:https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=85aa2545&dataType=0&pageNo=1
- 確定拠出年金法施行令(第2条 事業主への返還に係る事業主掛金)厚生労働省法令等データベース:https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=85aa2606&dataType=0&pageNo=1
- 厚生労働省「確定拠出年金Q&A(令和8年4月1日施行)」No.76〜78:https://www.mhlw.go.jp/content/000653917.pdf
- e-Gov法令検索 確定拠出年金法(最新条文の確認用):https://laws.e-gov.go.jp/law/413AC0000000088
執筆・監修:株式会社日本企業型確定拠出年金センター(企業型DC導入支援専門/1,300社以上の導入実績)




