厚生年金と企業年金の違いとは?企業型確定拠出年金・確定給付企業年金などを解説
厚生年金と企業年金の違いとは?企業型確定拠出年金・確定給付企業年金などを解説
厚生年金と企業年金は同じ「年金」でも、運営者や支給方法などが異なります。
厚生年金は公的年金の一つで、会社員や公務員など加入対象者は強制的に必要があります。
企業年金は私的年金の一つで、企業が従業員のために設ける任意の年金制度です。企業年金には、確定給付型や確定拠出型など、さまざまな種類があります。
いずれの年金も、老後の生活を支える大切な制度です。今回は、厚生年金と企業年金の違いなどを解説します。
1. 厚生年金とは何か
厚生年金とは、政府が運営している公的年金です。会社員・公務員をはじめ、要件を満たす人は強制的に加入します。
常時従業員を使用する会社に勤務している70歳未満の人は、必ず厚生年金保険に加入します。
①国民年金、厚生年金との違い
国民年金と厚生年金は、日本における年金制度の中核を成す重要な要素ですが、それぞれの役割や仕組みに違いがあります。簡単に説明すると、国民年金は、日本国内に住むすべての人々、すなわち国民が加入すべき公的年金であり、原則的に義務であり、厚生年金は会社に勤める労働者が加入する年金で、給与からの拠出が基本です。
国民年金の基本的な内容は比較的シンプルで、全国民が一律の保険料を支払い、老齢になった際に一定の年金を受け取ることができます。2025年度における基本年金額は、月額約69,308円であり、老齢時の生活を支える基盤となります。ただし、この金額には物価の変動が影響し、受け取る金額は年によって変わる可能性があります。
一方で厚生年金は、給与に応じて保険料が決まるため、受け取る年金額も個人の収入に大きく依存します。例えば、月収が30万円の労働者は、国民年金に加え、厚生年金によってさらに月額数万円の年金を受け取ることができるので、国民年金だけでは賄えない生活を支えるための重要な役割を果たします。
また、厚生年金には企業年金が併存することが多く、企業が独自に用意する私的年金制度も存在します。これにより、厚生年金の受給額を補完する形で生活水準を維持できる可能性が高まります。企業型の確定拠出年金(企業型DC)や確定給付企業年金(DB)は、その一例です。これらは、企業が従業員に提供する年金制度であり、加入することで老後に向けた資産形成を促進します。
また、国民年金および厚生年金はいずれも老齢時に受け取る年金ですが、企業年金と連携することで、より多様な老後の生活資金を準備することが可能です。これら全体を通じて、国民は自らの将来に向けた年金対策を講じることが求められ、iDeCo(個人型確定拠出年金)を活用することも一つの方法とされています。これにより、より高い金額の年金を実現し、老後の生活の安定が図られるでしょう。
このように、国民年金と厚生年金は、それぞれ異なる特徴を持ちながら、共に国民の生活を支えるために設計されている制度であることが理解できます。
パートやアルバイト勤務の人も、就業規則や労働契約などに定められた一般社員の1週間の所定労働時間および1カ月の所定労働日数の4分の3以上ある場合、加入対象者となります。
さらに、「特定適用事業所」「任意特定適用事業所」「国・地方公共団体に属する事業所」に勤務し、以下の条件に該当する人も厚生年金に加入します。
● 週の所定労働時間が20時間以上あること
● 所定内賃金が月額8.8万円以上であること
● 学生でないこと
なお、厚生年金を受給するタイミングは原則として65歳からで、60歳から繰り上げたり最長で75歳まで繰り下げたりすることが可能です。
受給期間は一生涯で、国民年金と並んで老後生活を支える収入減といえるでしょう。
2. 企業年金の種類
企業年金とは、国民年金と厚生年金の上乗せとなる3階部分にあたる私的年金制度です。企業が従業員の退職後の生活を経済的に支援するために導入する年金制度で、福利厚生の一環として機能しています。
企業年金には「確定拠出型」と「確定給付型」という2つのタイプがあり、各企業の方針により自由に導入できます。「公的年金だけで生活できるか不安」という従業員にとって、企業年金はありがたい制度といえるでしょう。
①企業型確定拠出年金(企業型DC)の特徴
企業型確定拠出年金は、企業が掛金を拠出し、従業員が自分の責任で運用する点が特徴です。従業員が受け取る年金額は掛金額とその運用成果によって決まり、加入者自身が運用先を選択します。
運用成績によっては効率よく企業年金の原資を用意でき、より充実した老後生活を送れるメリットがあります。また、企業型確定拠出年金には運用益が非課税になる税制優遇があるため、一般的な投資よりも有利に資産形成を進めることが可能です。
ただし、思うような運用結果が得られなかった場合、元本割れを起こしてしまうリスクがあります。
②確定給付企業年金(DB)の特徴
確定給付企業年金は、企業が加入者に対して事前に約束された給付額を支給する制度です。将来受け取る年金の金額が確定しており、従業員にとっては将来を予測しやすいメリットがあります。
年金の原資は企業が用意するため、企業が運用責任を負います。従業員が運用リスクを負わない点は、企業型確定拠出年金との違いです。
③厚生年金基金の特徴
※こちらの制度は、現在は廃止されています。
厚生年金基金は、かつて企業が従業員のために設立した年金制度の一つで、特に厚生年金保険の上積み部分として位置付けられていました。1966年に創設され、企業が独自に拠出金を積み立て、退職時に年金として支給する形態が特徴でした。この制度は、企業の運営が安定していることが前提であり、高い給付水準を維持することで従業員の退職後の生活を支えることを目的としていました。
厚生年金基金の特徴として、まず支給額の計算方法が挙げられます。一般的には、在職期間や給与水準に基づいて年金額が算定され、長期的に企業に勤めている従業員にはより多くの給付が行われる仕組みでした。また、一般的には企業の業績に応じて年金資産を運用するため、安定性と利回りを求められる制度でした。
さらに、厚生年金基金は従業員の会社に対する忠誠心を高める効果もありました。企業が基金を設立することで、従業員は長一期待される年金受給に向けて働く意欲を持つようになり、離職率低減にも寄与しました。それにもかかわらず、2005年には制度の見直しが行われ、年金財政の逼迫や企業の負担軽減を理由に、多くの厚生年金基金は廃止されることとなりました。
現在は、企業型確定拠出年金か確定給付企業年金が主流となっています。
3. 厚生年金と企業年金の基本的な違い
厚生年金は公的年金制度の一部であり、要件に該当する会社員や公務員は加入しなければならない義務的な制度です。加入条件を満たしている限り、すべての労働者に適用され、国が管理運営を行います。
給付額や支給条件は法律で決まっており、企業ごとに差別化することはできません。
一方、企業年金は企業が自主的に設立する私的な年金制度です。加入対象者は企業が決定できたり、各従業員が自由に加入するか選択できたりするタイプもあります。
企業が独自に運営するため、企業年金の設計や給付内容は企業によって異なります。柔軟性が高く、企業のニーズに合わせて導入しやすい点は、厚生年金とは異なるメリットといえるでしょう。
①企業年金と厚生年金は両方もらえる
厚生年金と企業年金は、退職後の生活を支えるための重要な制度です。企業年金とは、企業が従業員のために積立て、退職後に年金として支給されるものです。一方、厚生年金は日本の公的年金制度の一部であり、全ての被用者が加入し、年金受給時に基礎年金と一緒に支給されます。これにより、厚生年金と企業年金の両方を受け取ることが可能です。
厚生年金は国から支給されるもので、その金額は職務の内容や年齢、加入期間によって異なります。また、企業年金は企業によって制度が異なり、確定拠出年金(DC)や確定給付企業年金(DB)、厚生年金基金などがあり、これらの制度に基づく年金額も企業によって変动します。たとえば、企業型確定拠出年金では、毎月の拠出金が個人ごとの口座に振り分けられ、運用次第で受給額が変わります。
このように、厚生年金と企業年金はそれぞれ特性があり、受給資格を満たす限り両方を受け取ることができます。ただし、受給額がどれほどになるかは個人の状況や企業の制度によって異なるため、事前にシミュレーションなどで確認することが大切です。
企業における企業年金制度の有無やその種類も、社員の退職後の生活に大きな影響を与えます。特に企業型確定拠出年金の導入を検討している企業も増えており、これにより退職後の資産形成を手助けすることが期待されます。
4. 企業年金と退職金との違い
企業年金は従業員の退職金作りの一環として機能しており、一般的な退職金制度のように活用できます。ただし、企業年金は年金での受け取りか一時金での受け取りを選択できる一方で、退職金制度では一括で支給されるのが一般的です。
受け取り方の柔軟性に関しては、企業年金のほうが優れているといえるでしょう。「定期的な収入として受け取りたい」という従業員にとっては、退職金制度よりも企業年金のほうが好相性です。
ただし、退職金制度は企業が独自の支給ルールを制定できるメリットがあります。支給対象者や計算方法などを自分たちで決められるため、柔軟な制度運営をしたい場合は企業年金よりも退職金制度のほうが向いている可能性があります。
5. 企業年金と公的年金の関係
日本の年金制度は3階建ての構造となっており、公的年金は1階部分の国民年金と2階部分の厚生年金が該当します。企業年金は公的年金の上乗せとなる私的年金で、3階部分にあたります。
公的年金は、国民全体に対して提供される基本的な年金制度です。国が制度を運営しており、終身に渡って年金が支給されます。
一方で、企業年金は公的年金に上乗せする形で提供されます。公的年金を補完する形で存在しており、充分な退職後の生活を保障するための福利厚生制度です。
6. 企業年金の受け取り方と金額
企業年金の受け取り方は、主に以下の3つです。
● 年金形式
● 一時金形式
● 年金形式と一時金形式の併用
年金形式では定期的に一定額を受け取るため、安定した収入が得られるメリットがあります。また運用しながら取り崩すため、最終的に受け取れる金額が一時金よりも増える可能性があります。
一方、一時金形式では退職時にまとまった金額を一度に受け取ることが可能です。退職後にまとまった資金ニーズがある場合に、便利な受け取り方といえるでしょう。
このように、企業年金では従業員が自分に合った受け取り方を選んで生活設計を行えます。企業年金の規約によって受け取り方は異なるため、確認しておきましょう。
①企業年金と厚生年金は一緒に受け取れるか
企業年金と厚生年金は、一緒に受け取れます。
| 厚生年金 | 原則65歳から受け取り。ただし60歳~75歳までの間で選択できる |
|---|---|
| 企業年金 | 原則60歳からの受け取り。ただし規約次第で受け取りのタイミングを選択できる |
厚生年金と企業年金はそれぞれ別物の制度なので、同じ時期に受け取ることが可能です。公的年金として「国民年金+厚生年金」を受け取り、さらに企業年金を受け取れば、経済的なゆとりが生まれるでしょう。
なお、厚生年金を66歳以降に繰り下げた場合、1カ月あたり0.7%の割合で年金が増額されます。そのため、65歳で退職して企業年金を一時金で受け取り、企業年金を使い終わったら公的年金を繰り上げ受給する、という選択も可能です。
このように、企業年金と厚生年金を併用して収入源を多様化させれば、生活スタイルに合わせて柔軟に活用できます。自分にとって最適な選択をするためにも、厚生年金と企業年金を、それぞれいくら受け取れるのか確認することは大切です。
7. 企業年金の受給額の目安
企業年金の受給額は、拠出した掛金や運用状況によって変動するため、一概にはいえません。一般的に、加入年数が長く掛金の拠出額が多いほど、受け取れる年金額も増えます。
なお、企業年金連合会によると、2022年度における老齢給付金(年金)1件あたりの平均金額は70万円でした。 過去のデータを見ても、60万円台後半から70万円台前半で推移しているため、おおむね「70万円程度」が目安といえるでしょう。
8. 企業年金はいつまでもらえる?
企業年金の受給期間は、企業によって異なります。なお、確定拠出年金法では、「5年以上20年以下の有期、または終身年金(規約の規定により一時金の選択可能)」と規定されています。
一定期間だけ支給される有期年金や確定年金を導入している企業が一般的ですが、企業によっては「10年保証終身年金」のように、一定期間は遺族への支払いを保証するケースもあります。
9. 企業年金がない企業は企業型確定拠出年金の導入を
企業年金制度がなく、従業員の退職金を用意する方法を検討している企業は、企業型確定拠出年金の導入がおすすめです。企業型確定拠出年金では、役員一人の企業でも導入できるため、ハードルが低いメリットがあります。
確定拠出年金では、元本を守れる「元本確保型」とリスクを取って運用できる「元本変動型」から、従業員が自由に運用商品を選択できます。各従業員のニーズに合わせやすいうえに、企業は運用リスクを負いません。
従業員全員が加入する制度だけでなく、加入するかどうかを各従業員が任意に選択できる「選択型」の制度もあります。より柔軟な制度を導入したい場合は、選択制を導入するとよいでしょう。
10. まとめ
厚生年金は公的年金制度の一つで、企業年金は従業員の老後生活を支えるための私的年金制度の一つです。企業年金には確定給付型や確定拠出型などの種類がありますが、いずれも3階部分の年金制度として重要な役割を果たしています。







