財形貯蓄は年金なの?退職金との違いや転職時の対応も解説
財形貯蓄は年金なの?退職金との違いや転職時の対応も解説
財形貯蓄は、勤労者の資産形成をサポートする福利厚生制度の一環です。しかし、財形貯蓄の仕組みや退職金との違い、転職や退職時の対応について正確に知っている人は少ないのではないでしょうか。
財形貯蓄は、従業員が職場を通じて着実に貯蓄できるシステムです。給与から一定額を積み立て、無理なく資産形成を行える特徴があります。
こちらの記事では、財形貯蓄の概要や退職金との違いなどを解説します。福利厚生の充実を図っている事業主の方に役立つ内容となっているので、参考にしてみてください。
1. 財形貯蓄の種類
財形貯蓄は、将来の資産形成を目指す従業員を支援する制度です。財形貯蓄には以下の3種類があり、それぞれ特徴が異なります。
- 一般財形貯蓄
- 財形年金貯蓄
- 財形住宅貯蓄
いずれの財形貯蓄を利用する場合でも、従業員に基本的な仕組みやメリット、デメリットを理解してもらう必要があります。
①一般財形貯蓄
一般財形貯蓄は、貯めたお金の目的を問わず使途自由な財形貯蓄です。契約時の年齢制限はなく、毎月の貯蓄額や引き出しのタイミングを自由に決められます。
財形貯蓄制度の中で最も自由度が高く、長期的に資産形成を行えます。途中の引き出しも自由なので、教育資金や老後資金を用意はもちろん、車の購入や海外旅行をはじめ自分の趣味を楽しむ目的でも活用できます。
②財形年金貯蓄
財形年金貯蓄は、将来の老後生活資金を計画的に用意するための制度です。一般財形制度とは異なり使途自由では引き出せず、老後の年金づくりに特化している点が特徴です。
55歳未満の従業員が利用可能で、引き出しに関しては「60歳以降の契約所定の時期から5年以上の期間にわたって年金として支払いを受けること」という制約があります。
後述する財形住宅貯蓄とあわせて、元利合計550万円までは利子が非課税となるメリットがあります。税制優遇を受けながら老後資産を用意できることで、従業員が感じている退職後の金銭的不安を軽減できるでしょう。
③財形住宅貯蓄
財形住宅貯蓄は、住宅取得資金を用意する目的で貯蓄を行う制度です。55歳未満の従業員が利用可能で、引き出しに関して「持家取得又は持家の増改築(リフォーム)等を目的」とした用途に限定されています。
将来的にマイホーム購入やリフォームを検討している従業員にとって、計画的に必要な費用を用意できる制度といえるでしょう。財形年金貯蓄とあわせて、元利合計550万円までは利子が非課税となります。
2. 財形貯蓄と退職金の違い
財形貯蓄と退職金は、老後に向けた資産作りという意味合いでは共通していますが、全く別の制度です。
- 財形貯蓄:従業員が自分の意志で資産形成を行う
- 退職金:企業が従業員のために退職時に渡すお金を用意する
財形貯蓄は、従業員が自分の意志で行うという特徴があります。給与から一定額を自動的に積み立てる制度であり、行うかどうかは従業員の意志にゆだねられています。
一方で、退職金は企業が原資を用意して、従業員が退職するときにお金を支給する制度です。多くの企業では、勤続年数や業績に基づいて退職金額を計算します。
なお、企業によっては退職金を一時金で支払わずに、企業年金という形で支払っています。また、「選択制企業型確定拠出年金」という、従業員が加入するか自分の意志で判断できる企業年金制度を導入することも可能です。
3. 財形貯蓄の始め方
従業員が財形貯蓄を始めるためには、人事や福利厚生の担当者が対応するのが一般的です。申込みの書類を記載してもらい、契約している金融機関に回付すれば、財形貯蓄を始められます。
なお、財形貯蓄は事業主に雇用される者であれば雇用形態に関係なく利用できます。そのため、事業主としては正社員だけでなくパートやアルバイト従業員に対しても、希望している場合は財形貯蓄を行わなければなりません。
4. 財形貯蓄の積立を中断したい時
財形貯蓄を始めたものの、ライフイベントの発生に伴って財形貯蓄の継続が難しくなることがあります。経済的な理由や個人的な事情で財形貯蓄の積み立てを中断したい場合、いつでも特段の制限なく行えます。
積み立てを中断するときは、始めるときと同様に、人事や福利厚生の担当者が対応するのが一般的です。中断するための書類を記載し、契約している金融機関に回付すれば一時的に積み立てを中断できます。
このように、いつでも始めることができ、いつでも中断できる柔軟性の高さは財形貯蓄の魅力といえるでしょう。
ただし、財形年金貯蓄と財形住宅貯蓄の場合については、最後の給与からの預入日から次の預入等がないまま2年が経過すると非課税措置が受けられなくなります(海外勤務をする場合や3歳未満の子に係る育児休業を取得する場合などは例外)。
5. 退職・転職したときの財形貯蓄の取り扱い
財形貯蓄を始めたあとに退職または転職したときは、以下のような取り扱いになります。
- 退職時:新たな積立はできなくなり、一定期間後に払い出される(財形年金貯蓄・財形住宅貯蓄は課税扱いとなる)
- 転職時:新たな勤務先で財形貯蓄制度が導入されていれば、新たな勤務先に引き継げる(新たな勤務先に財形貯蓄制度がない場合は払い出される)
退職や転職に伴って財形貯蓄の継続ができなくなっても、特段ペナルティはありません(財形年金貯蓄・財形住宅貯蓄が課税扱いとなる可能性はあります)。そのため、従業員はリスクを感じることなく財形貯蓄を行えるでしょう。
6. 財形貯蓄制度のメリット
財形貯蓄制度は、従業員の資産形成をサポートする有効な手段です。従業員はもちろん、事業主にとってもメリットがあります。
以下で、財形貯蓄制度のメリットを解説します
①従業員のメリット
従業員が財形貯蓄制度を活用すれば、着実に資産形成を行えます。財形貯蓄は、最初の手続きさえ済ませてしまえば自動的に天引き貯蓄されるため、機械的に蓄財することが可能です。
天引き額は、従業員が無理なく継続的できる金額で設定できるため、生活レベルを落とすことなく取り組めます。金融機関によっては、積立金に対する利息が一般的な普通預金金利よりも高く設定されていることもあるため、効率よく貯蓄を行える点もメリットです。
財形貯蓄は強制的があるため、「自分の意志では計画的に貯蓄できない」「手元にあるとついつい使ってしまう」という方とも好相性でしょう。あらかじめ給与天引きを行い、残ったお金で生活することを心がければ、節約意識を持つきっかけになるかもしれません。
また、財形年金貯蓄と財形住宅貯蓄には元本550万円まで利子が非課税となる優遇があります。普通預金や定期預金と比較して、税制面で優遇が行われていることがわかります。
転職や退職に伴って払い出されても元本割れするリスクはないことから、安心して取り組める点も魅力といえるでしょう。
なお、従業員が財形貯蓄を行うメリットはこちらの記事でより詳しく解説しているので、あわせてご覧ください。
https://ndc-center.jp/column/property_savings-Withdraw
②事業主のメリット
財形貯蓄制度を導入することで、事業主もメリットを得られる可能性があります。財形貯蓄制度は福利厚生の一環であり、導入に伴って福利厚生を充実させることができます。
福利厚生を充実させれば、従業員が「大切にされている」と感じ、モチベーション向上につながる可能性があるでしょう。その結果、人材が定着して離職率の低下につなげられるメリットが期待できます。
独立行政法人 労働政策研究・研修機構が令和元年5月17日~6月14日に行った調査によると、一般財形・年金財形・住宅財形のいずれか一つでも導入している企業は全体の35.2%でした。300人以上の企業では73.3%が導入している一方で、30人未満の企業では24.6%に留まっています。
規模が小さい企業ほど、財形貯蓄制度の導入は他社との差別化につながることが見込まれます。人材確保や人材採用で苦労している事業主にとって、財形制度の導入は検討する余地があるといえるでしょう。
7. 財形貯蓄制度のデメリット
財形貯蓄制度にはメリットがある一方で、デメリットも存在します。
以下で、具体的にどのようなデメリットが考えられるか解説します。
①従業員のデメリット
従業員が財形貯蓄を行うデメリットとして、普通預金ほど気軽に引き出しができない点が挙げられます。普通預金の場合はATMに行けば簡単に引き出せますが、財形貯蓄を引き出す際には勤務先を経由しなければなりません。
実際にお金が手元に入るまで1週間程度かかることもあるため、流動性は普通預金よりも劣ります。予想外の出費や緊急事態が発生した際など、すぐに資金を用意したいシチュエーションでは対応できない点に留意しましょう。
他にも、自動的に給与から天引きされることで手取りの収入が減ってしまうデメリットがあります。特に、まだ収入が低い若年層にとって、手取り収入が減ると生活が厳しくなってしまう可能性が考えられます。
無理に財形貯蓄を行うと、生活費が不足してしまうという本末転倒な事態になりかねないため、注意が必要です。
②事業主のデメリット
事業主が財形貯蓄制度を導入するデメリットは、手間と労力がかかることです。財形貯蓄制度を職場に導入するためには、賃金から控除するための労使合意をはじめ、さまざまなプロセスを踏む必要があります。
- 制度内容の確定
- 取扱金融機関の選定と事務処理の調整
- 社内規程(財形貯蓄規程)の作成
- 従業員との労使協定
- 取扱金融機関との取り決め
- 所轄税務署長宛に「財産形成非課税住宅・年金貯蓄に関する届出書」を提出
- 事務担当者・従業員への説明
- 申し込みの募集
- 賃金控除と払い込み代行
特に、人材が不十分な中小企業では、事務負担を理由に財形貯蓄の導入を躊躇するケースも少なくありません。また、制度導入後も人事や労務担当者の作業が増える点もデメリットといえるでしょう。
8. 財形貯蓄以外でおすすめの企業型確定拠出年金(企業型DC)とは?
財形貯蓄以外でおすすめの福利厚生制度として、企業型確定拠出年金(企業型DC)があります。企業型確定拠出年金も、従業員の資産形成を後押しするための制度です。
企業型確定拠出年金は「年金」という名があるとおり、自分専用の年金を作る私的年金制度です。財形年金貯蓄と似ている点も多いですが、以下で違いを簡単にまとめました。
| 財形年金貯蓄 | 企業型確定拠出年金 | |
| リスク商品への運用 | 行わない | 行う(行わないこともできる) |
| 元本保証 | あり | なし(元本確保型の商品を選択すればあり) |
企業型確定拠出年金の特徴は、加入者個人の選択により投資対象を選定できる点です。これにより、リスクとリターンを自分でコントロールしながら、柔軟かつ積極的な資産運用が可能になります。
なお、企業型確定拠出年金には従業員が加入するかどうかを個別に判断できる「選択制企業型確定拠出年金」もあります。従業員全員の同意が得るのが難しい場合は、選択制企業型確定拠出年金の導入を検討するとよいでしょう。
9. 財形貯蓄制度に関するよくある質問
最後に、財形貯蓄制度に関するよくある質問を紹介します。
①財形貯蓄制度がおすすめの人は?
財形貯蓄制度は、長期的な資産形成を目指す人に向いています。また、元本割れのリスクを負わずに安全かつ確実に資産形成をしたい人に向いているといえるでしょう。
②個人で財形貯蓄はできますか?
財形貯蓄は、個人ではできません。勤務先を経由して行わなければならないため、個人が任意で財形貯蓄を行うことは不可能です。
事業主としては、財形貯蓄を希望する従業員がいる場合は、制度を導入する必要があります。
③財形貯蓄ができる勤労者の条件は?
財形貯蓄は、雇用形態に関係なく制度を導入している企業に勤務している従業員であれば誰でも利用できます。
④財形貯蓄は預金保険の対象になりますか?
財形貯蓄は、預金保険の対象です。もし財形貯蓄を行っている金融機関が破綻しても、1金融機関ごとに預金者1人当たり元本1,000万円までと破綻日までの利息が保護されます。
このように、財形貯蓄は非常に安全性が高い貯蓄手段といえるでしょう。
⑤財形年金貯蓄は途中引き出しできますか?
財形年金貯蓄は、途中引き出しが可能ですが「60歳以降の年金受け取り以外」の用途で引き出すと非課税メリットがなくなります。
ただし、元本割れを起こすリスクはないため、特段気にするほどのデメリットではないでしょう。
10. まとめ
財形貯蓄は、従業員の計画的な資産形成を後押しするための福利厚生制度です。従業員の経済的安定性と将来に向けた貯蓄を促進することで、安心して働ける就労環境の整備につながります。







