退職金なしの会社は採用で不利?選択制DC導入で掛金コストを抑えて福利厚生を充実させる方法
「うちは中小企業だから退職金制度がないのは仕方がない」 「退職金を導入したいが、将来の財務リスクが怖くて踏み切れない」
このようにお考えの経営者様は少なくありません。退職金制度の有無は法的な義務ではありませんが、人材獲得競争が激化する現代において、求職者が企業を選ぶ際の重要な判断基準となっています。
退職金制度がないことは、優秀な人材の採用難や定着率の低下といった経営リスクに直結しかねません。そこで注目されているのが、既存の賃金制度を活用して企業の新たな掛金コストを抑えつつ導入できる「選択制企業型DC(選択制確定拠出年金)」です。
本記事では、退職金制度を取り巻く現状と経営リスクを整理し、その解決策となる選択制DCの仕組みとメリットについて解説します。
この記事の監修
株式会社日本企業型確定拠出年金センター
執行役員 企業型DC導入支援グループマネージャー
石黒充顕
- DCプランナー2級
- AFP(2級ファイナンシャル・プランニング技能士)
- 企業年金管理士
- 確定拠出年金ガイド(SBI Benefit Systems認定資格)
- 情報セキュリティマネジメント試験合格
- 知的財産管理技能検定3級
- グーグルデジタルワークショップ修了
- 給与計算実務能力検定2級
日本企業型確定拠出年金センターの立ち上げから事業化に関わり、自身も400社以上の企業に企業型DCを導入している。商工会議所や工事組合をはじめ多数の税理士法人で職員向け及び顧客向けにセミナーを実施している。
自身の出演するYouTube『DCチャンネル』は専門チャンネルでありながら1万人を超える登録者を誇っている。
▶DCチャンネルはこちら
https://www.youtube.com/@ndc-center
NewsPicksやヒロ税理士、マキノヤ先生など動画出演も多数している。

1. 退職金制度がない会社は違法?導入率の現状と仕組み
勤務先に退職金制度がないと知った際、法律的に問題はないのかと疑問に思うかもしれません。
しかし、退職金の支払いは法律で義務付けられているわけではなく、あくまで企業が任意で設ける制度です。 そのため、退職金制度の有無は企業の経営判断に委ねられています。
ここでは、退職金制度の法的な位置付けや、実際の導入率がどのようになっているのか、その現状と仕組みについて解説します。
2. 退職金制度がない会社の実態と法的な位置づけ
まずは、日本企業における退職金制度の普及状況と、法的な義務について確認します。
自社の状況を客観的に把握することが、制度検討の第一歩です。
退職金の支給は法律上の義務ではない
労働基準法において、退職金の支払いは企業の義務として定められていません。退職金制度を設けるか否かは、あくまで経営判断に委ねられています。
就業規則や賃金規程に退職金の定めがない限り、企業が支払う必要はありません。そのため、「退職金制度がないこと」自体は違法ではなく、コンプライアンス上の問題もありません。
中小企業の約3割は「退職金なし」という現実
厚生労働省の「令和5年就労条件総合調査」によると、退職給付制度がある企業の割合は全体で74.9%です。しかし、企業規模別に見ると大きな差があります。
・従業員1,000人以上: 90.1%が導入
・従業員30~99人: 70.1%が導入
つまり、中小企業においては約3割が退職金制度を持っていません。しかし裏を返せば、「中小企業であっても約7割は退職金制度を整備している」という事実があります。
求職者が競合他社と比較した際、制度の有無が「選ばれない理由」になるリスクは十分に考えられます。
3. 退職金制度がないことによる経営上のリスク
「現金を給与や賞与で還元しているから問題ない」と考える経営者様もいらっしゃいますが、採用市場や長期的な組織運営の観点からは、明確なデメリットが存在します。
採用競争力の低下と機会損失
求職者、特に将来の安定を重視する優秀な層やミドル層にとって、退職金制度の有無は企業選びの必須条件となるケースが多々あります。 たとえ月々の給与が高くても、「退職金なし」というだけで選択肢から外されてしまう可能性があります。これは、目に見えない大きな機会損失です。
従業員の定着率低下(リテンションへの影響)
退職金制度、特に勤続年数に応じて支給額が増加する仕組みは、従業員に対する「長期勤続へのインセンティブ」として機能します。
この制度がない場合、従業員が会社に留まる経済的な動機づけの一つが失われることになります。キャリアアップや少しの条件改善を理由とした離職を防ぐ抑止力が弱まり、人材流出のリスクが高まります。
4. 従来型退職金の課題と「選択制DC」という解決策
退職金制度の必要性は理解していても、導入に二の足を踏む最大の理由は「掛金コスト」と「運用リスク」でしょう。
従来の「退職一時金」や「確定給付企業年金(DB)」には、以下のような経営課題がありました。
・退職給付債務の発生: 将来の支払いに備え、多額の引当金を計上する必要がある。
・運用リスク: 運用成績が悪化した場合、企業が不足分を穴埋めしなければならない。
・掛金コスト: 制度導入に伴い、追加の掛金が発生する。
これらの課題を解決し、「掛金コストを抑えたい企業」と「将来に備えたい従業員」の双方にメリットをもたらすのが「選択制企業型DC」です。
5. 経営者が知るべき「選択制DC」導入のメリット
選択制DC(選択制確定拠出年金)とは、給与の一部を「前払い退職金(給与)」として受け取るか、「確定拠出年金の掛金」として積み立てるか、従業員自身が選択できる制度です。
企業側の視点から見た主なメリットは以下の3点です。
追加の掛金負担なしで制度導入が可能
選択制DCは、既存の給与の一部を「生涯設計手当(名称は企業による)」などに変更し、そこから掛金を拠出する仕組みをとることが一般的です。
新たに会社が掛金を上乗せするわけではないため、掛金コストを抑えて従業員が資産形成を行える環境(退職金制度)を構築できます。
※制度の名称と求人表記について
選択制DCは、会社が掛金を全額負担する従来の退職金とは性質が異なります。そのため、求人票や就業規則で「退職金あり」と記載する場合は、求職者の誤解を防ぐため、以下のような表記が推奨されます。
・退職金制度あり(選択制企業型確定拠出年金)
将来の債務リスク・運用リスクがない
企業型DCは、運用結果の責任を加入者(従業員)が負う制度です。
会社側は制度の運営管理手数料等を負担するだけで、将来の給付額を保証する必要がありません。したがって、退職給付債務を計上する必要がなく、バランスシートを圧迫しない健全な経営が可能です。
税制メリットによる実質手取りの増加(福利厚生の強化)
従業員が選択制DCで掛金を拠出した場合、その掛金は「給与」とはみなされず、所得税や住民税の課税対象外となります。
同じ金額を給与として受け取る場合と比較して税負担が抑えられるため、その分、効率的に老後資産を形成することができます。
会社が掛金を上乗せするわけではないが、国の制度を活用することで、従業員の資産形成を有利にする仕組みを提供できます。これが、選択制DCは効果的な福利厚生と呼ばれる理由です。
6. 企業型DC導入時によくある誤解と注意点
導入を検討する際、正しく理解しておくべきポイントがあります。
iDeCo(個人型)と何が違うのか?
iDeCoは従業員が個人的に加入し、個人の財布から掛金を支払うものです。一方、企業型DCは会社が制度を用意し、給与から天引き(または事業主掛金として拠出)される仕組みです。
企業型DCの方が掛金の上限額が大きく設定できる場合が多く、口座管理手数料は会社が負担するため、従業員にとってはiDeCoよりもメリットが大きいケースがほとんどです。
投資教育の実施義務
企業型DCを導入する事業主には、従業員に対して「投資教育(継続的な投資に関する知識の提供)」を行う努力義務が課されています。
「導入して終わり」ではなく、従業員が元本確保型商品と投資信託の違いを理解し、正しく制度を活用できるよう、専門家のサポートを受けながら継続的なフォロー体制を整えることが重要です。
「退職金」としての見せ方・伝え方
選択制DCを導入した場合、「退職金制度あり」と公言すること自体は嘘ではありません。しかし、会社が掛金を上乗せ拠出する場合とは異なり、原資はあくまで「本人の給与」です。
採用面接や会社説明会では、「会社が掛金を払ってくれる退職金」ではなく、「自分で給与の一部を非課税で積み立てられる有利な制度がある」という正しい仕組みを説明することが、入社後のミスマッチや不信感を防ぐために重要です。
7. まとめ
退職金制度のない企業にとって、選択制DCの導入は、財務リスクを負わずに採用競争力を高めるための有効な手段です。
・コストを抑える: 既存給与の枠組みを活用し、掛金コストを抑制。
・リスクを回避する: 運用リスクや将来の債務負担がない。
・従業員満足度向上: 税制優遇による効率的な資産形成を支援。
「退職金がないこと」をネガティブな要素のまま放置せず、次世代のスタンダードである選択制DCの導入を検討してみてはいかがでしょうか。
日本企業型確定拠出年金センターでは、企業担当者のみなさまに、企業型DC導入に関する個別相談を無料で行っています。企業型DC導入のメリット・デメリットも詳しくお伝えできますので、ぜひ一度お問合せください。
よくある質問(FAQ)
Q 退職金制度がないことは違法ですか?
A いいえ、違法ではありません。
退職金の支給は法律上の義務ではなく、企業の経営判断に委ねられています。
ただし、求職者は企業選びの際に退職金の有無を重視する傾向があるため、採用競争力の観点からは制度の導入が推奨されます。
Q 従業員が運用で損をした場合、会社が補填する必要はありますか?
A いいえ、補填の必要はありません。
企業型DCは、加入者である従業員自身が運用商品を選び、その結果について責任を負う制度です。
会社側に将来の不足分を穴埋めする義務(退職給付債務)は発生しません。
Q 従業員は必ず掛金を積み立てなければなりませんか?
A いいえ、強制ではありません。
従業員は自分のライフプランに合わせて「掛金として積み立てる(将来の退職金にする)」か「給与として全額受け取る(現在の生活費にする)」かを自由に選ぶことができます。
これは会社からの支給額が変わるわけではなく、受け取り方を従業員自身が選択できる仕組みです。
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