役員退職金はいつまでに支払う必要があるの? 退職前に支払う方法や退職後3年以内に支払う方法を解説
企業の役員が退任した際には、規程に沿って役員退職金を支払うことになります。高額な役員退職金を支払うことになったら、企業の財務に大きな影響を与えかねません。
役員退職金を支払うタイミングは、ある程度柔軟に調整できます。しかし、役員の退任を控えている方の中には、役員退職金をいつまでに支払えばよいのか疑問に感じることもあるでしょう。
今回は、役員退職金を支払うタイミングや支給する際のルールについて解説します。
この記事の監修
株式会社日本企業型確定拠出年金センター
執行役員 企業型DC導入支援グループマネージャー
石黒充顕
- DCプランナー2級
- AFP(2級ファイナンシャル・プランニング技能士)
- 企業年金管理士
- 確定拠出年金ガイド(SBI Benefit Systems認定資格)
- 情報セキュリティマネジメント試験合格
- 知的財産管理技能検定3級
- グーグルデジタルワークショップ修了
- 給与計算実務能力検定2級
日本企業型確定拠出年金センターの立ち上げから事業化に関わり、自身も400社以上の企業に企業型DCを導入している。商工会議所や工事組合をはじめ多数の税理士法人で職員向け及び顧客向けにセミナーを実施している。
自身の出演するYouTube『DCチャンネル』は専門チャンネルでありながら1万人を超える登録者を誇っている。
▶DCチャンネルはこちら
https://www.youtube.com/@ndc-center
NewsPicksやヒロ税理士、マキノヤ先生など動画出演も多数している。

1. 役員退職金の基本事項
役員退職金とは、役員が退任する際に企業から支払われる報酬です。役員としての長年の功績や働きに対する報酬の一部として位置づけられており、一般的な労働者の退職金と比較して高額になるケースが一般的です。
2. 役員退職金の支払時期はいつまで?
役員退職金は、株主総会での決議後、速やかに支払うケースが一般的です。ただし、定款や株主総会の決議次第では、当該役員が退任する前に役員退職金を支給することもできます。
企業の財務状況的にまとまった支出が厳しいときは、支給時期を遅らせることも可能です。 ただし、原則として「退職時に株主総会等で支給額(または支給基準)を確定」させておく必要があります。
その上で、実際の支払いを分割や後払いにし、おおむね3年程度で完済する計画であれば、税務上の問題は発生しにくいとされています。 ※支給額の決定自体を理由なく先延ばしにすると、利益調整とみなされ損金算入が認められないリスクがあります。
①退職前に支給する
役員退職金は原則として「退職時」に支払うものです。退職の事実がない段階で「退職金」の名目で一括支給を行うと、税務上「役員賞与」とみなされ、原則として会社の損金(経費)にできないリスクが極めて高くなります。
ただし、例外的に「退職金前払い制度」を導入し、毎月の役員報酬に上乗せして支給する場合は、定期同額給与として損金算入が可能です。この場合、将来の退職時の一時金支給はなくなります。
資金繰りや個人の所得税率を考慮し、慎重な検討が必要です。
②退職3年以内を目安に支給する
役員退職金は、退職後3年以内に支給する方法があります。
これにより、役員退職金が即座に支給されることが難しい場合でも、企業は適切に資金を準備し、支出を分散させることが可能です。
一般的には一括または分割払いでの対応が可能であり、企業の資金繰りに応じて支払い方法が選択されます。 ただし、分割期間が長期(おおむね5年〜10年以上など)に及ぶ場合や、利息が付される場合は、税務上「退職所得」ではなく「雑所得(年金扱い)」とみなされ、税負担が増える可能性があります。実務上は、3年〜5年程度での分割完了が目安とされることが多いです。
ただし、分割期間が長期間に及ぶと、税務署から「退職金」ではなく「年金(雑所得)」とみなされ、役員個人の税負担が重くなるリスクがあります。 そのため、実務上は3年程度での分割完了が目安とされています。
なお、役員退職金の支払いには株主総会の決議が欠かせません。退職金規程に基づいて退職金額を算定し、株主総会において詳細な事項(金額や支払い方法、支払時期)などを決議します。
株主総会の決議がなければ、適正な方法で退職金を支払ったことにならないため、税務署より指摘を受けて損金算入が否認される可能性が高まります。
3. 役員退職金の計算方法
役員退職金の計算方法は企業ごとに異なりますが、一般的に「功績倍率法」か「1年あたり平均額法」で計算します。
以下で、それぞれの計算方法について解説します。
①功績倍率法
功績倍率法は、役員の職務における功績や貢献度を考慮して退職金を計算する方法です。「最終報酬月額×勤続年数×功績倍率」で計算します。
例えば、最終報酬月額が50万円、勤続年数20年、功績倍率が2.0倍で計算をすると、役員退職金は「50万円×20年×2.0=2,000万円」です。
功績倍率は以下のような一般的な相場を参考に決められます。 ただし、税務調査対策として「同業種・同規模の他社の倍率データ」などを資料として残し、倍率の客観的妥当性を説明できるようにしておくことが重要です。
| 代表取締役社長 | 2.5~3.0 |
|---|---|
| 会長 | 2.0~2.5 |
| 専務取締役 | 2.0~2.5 |
| 常務取締役 | 1.5~2.0 |
| 取締役 | 1.0~1.5 |
| 監査役 | 1.0~1.5 |
②1年あたり平均額法
1年あたり平均額法は、役員の勤務期間に対して、同種同規模企業の役員退職金の平均額を乗じて計算する方法です。「同種同規模企業の1年あたり平均役員退職金×勤続年数」で計算します。
例えば、同種同規模の役員退職金の平均額が100万円で勤続年数が15年の場合、役員退職金は「100万円×15年=1,500万円」となります。
「同種同規模の役員退職金の平均額」を調査するのが煩雑なので、功績倍率法を採用して計算するケースが一般的です。また、何らかの事情で役員退任時の最終報酬月額が低く、これまでの功績を合理的に算出できないとき、1年あたり平均額法で計算することがあります。
③功労加算金
功労加算金とは、役員が特に高い業績や顕著な貢献をしたときに、退職金に上乗せする仕組みです。必ずしも、すべてのケースで功労加算金が支給されるとは限りません。
「役員退職金×20%」のように、決定した役員退職金に対して一定のパーセンテージを乗じて計算します。功労加算金の規程を設ける際には、透明性を確保するためにも、具体的に「どのような業績を挙げたときに○%を功労加算金として上乗せする」のような明文化をしておくとよいでしょう。
4. 役員退職金の損金算入時期
役員退職金は、一般的な給与とは税務上の取り扱いが異なります。企業の税務に大きな影響を与えるため、正しい方法で処理することが欠かせません。
役員退職金を支払ったときの損金算入時期は、原則として株主総会の決議等によって退職金の額が具体的に確定した日の属する事業年度となります。
ただし、実際に退職金を支払った事業年度において損金経理をした場合は、支払った事業年度において損金算入することも可能です。
損金算入時期を誤ると、税務署から指摘を受け、税金を再計算することになる可能性があります。結果的に追徴課税となる恐れがあるため、注意しましょう。
5. 役員退職金の分割払いと現物支給
役員退職金の支払方法は現金一括払いが基本ですが、場合によっては分割払いや現物支給となる可能性があります。
①分割払い
役員退職金の分割払いは、企業にとってキャッシュフローの負担を軽減する有効な方法です。
原則として役員退職金は一括支給ですが、分割払いについて株主総会で決議されており、分割払いを行う合理的な根拠がある場合は分割払いが認められます。
分割払いをする場合、損金算入時期は支給総額が確定した時点か、分割して支払うたびに費用計上する方法があります。
なお、役員退職金は年金形式での支給も認められており、年金で支払う場合は「退職所得」ではなく「雑所得」として取り扱います。役員個人の納税額に影響する点に留意しましょう。
②現物支給
役員退職金を、現金ではなく株式や不動産、生命保険などの現物で支給する方法もあります。現物支給では現金の代わりに現物資産を渡すため、企業はキャッシュアウトが生じません。
分割払いと同様に、現物払いについて株主総会で決議されており、現物払いを行う合理的な根拠がある場合に認められます。もちろん、退任する役員本人の同意も必要です。
ただし、現物支給を行う場合には現物資産の評価額を適正に評価しなければなりません。支払うときの「時価」で計算し、帳簿価格との差額によって固定資産売却益または売却損が発生します。
また、建物や車両などを現物支給した場合は、会社側に消費税の納税義務が発生する点にも注意が必要です(みなし譲渡)。
6. 役員退職金のさまざまなケース
役員退職金を支払う場面は、役員退任時だけとは限りません。昇進や分掌変更、現職中の死亡など、さまざまな状況によって退職金の支払いが発生する点に留意しましょう。
①昇進に伴う退職金
昇進に伴う退職金は、労働者が役員へ昇格したときにおいて、労働者としての貢献に対して支払われる退職金です。つまり、役員退職金ではなく一般労働者としての退職金となります。
規程に基づいて労働者であった期間の退職金額が確定した事業年度の損金として算入されます。
分掌変更とは異なり、未払金計上でも損金算入は可能ですが、税務上の疑義を避けるため、資金繰りが許す限り速やかに支給することが推奨されます。
②分掌変更の場合の退職金
分掌変更に伴う退職金とは、役員の担当業務が大幅に変更される場合に支払われる退職金です。以下のように、役員としての地位や職務の内容が激変して、実質的に退職したと同様の事情にある場合に退職金を支給するケースが該当します。
・常勤役員が非常勤役員になったこと(常勤していなくても代表権があったり、実質的にその法人の経営上主要な地位にある場合は除く)
・取締役が監査役になったこと(ただし、監査役でありながら実質的にその法人の経営上主要な地位を占めている場合や、使用人兼務役員として認められない大株主である場合は除く)
・分掌変更の後の役員の給与がおおむね50パーセント以上減少したこと
分掌変更に伴う退職金は、「実際に金銭等が支払われた時」に初めて損金(経費)として認められます。 通常の退任とは異なり、株主総会で決議しても、未払金として計上している状態では損金に算入できません。
資金繰りの都合で分割払いにする場合も、支払った分しかその期の経費にならないため注意が必要です。
③現職中の死亡時の退職金
役員が現職中に死亡した場合は「死亡退職金」として支給されます。損金算入のルールは、一般的な役員退職金と同様です。
ただし、遺族への生活保障という側面があるため、速やかな支払いが求められます。死亡退職金は一般的な退職金とは異なり、所得税や住民税ではなく相続税の対象となります。
7. 役員退職金の適正金額の設定
役員退職金は、適正な金額でなければ損金算入ができません。適正金額は一様に決められているわけではなく、企業の業種や規模、当該役員の業績などを評価して判断します。
税務署から「過大」と評価されるリスクを軽減するためにも、退職金規程を作成して合理的な支給基準を定めたうえで、株主総会での決議を経ましょう。退職金規程を作成しておけば、税務調査の際に支給額算定根拠を示すことができます。
なお、規程で計算方法や金額を定める場合は、業種や規模などを総合的に加味する必要があります。あわせて、役員の功績や企業の財務状況を考慮し、現実的かつ公正な金額を設定しましょう。
功績倍率法を採用する場合、支給功績倍率の上限は3倍とは限りません。3倍以下でも過大と評価されるケースや、逆に3倍を超える倍率で計算しても損金として認められるケースがあります。
また、支給額が法的に妥当であるかどうかの確認だけでなく、支給スケジュールが明確であること、他の役員とのバランスも整っていることも求められます。
8. 支払いのタイミングで悩まずに済む役員退職金制度は企業型確定拠出年金
役員退職金を支払う際には、株主総会で支払う金額やタイミングを決めなければなりません。企業の財務状況次第では、支払時期で退任する役員と折り合いが付かない可能性があります。
支払いのタイミングで悩まずに済む役員退職金制度が、企業型確定拠出年金です。企業型確定拠出年金は、加入する役員や労働者が自分で運用を行いながら退職金を用意し、退職するときに運用実績に基づいて一時金や年金で受け取る制度です。
実際に受け取れるのは原則として60歳以降ですが、59歳以下で退任したときも運用資産の持ち運び(ポータビリティ)が可能です。一般的な役員退職金のように、退職金規程の作成や株主総会の決議が不要なので、手続き面での負担を軽減できるでしょう。
なお、実際に受け取るタイミングは加入者自身が60歳以降、任意に選択できます。一般的な退職金制度よりも、柔軟性に優れているといえるでしょう。
9. まとめ
役員退職金をいつまでに支払えばよいか、明確なルールはありません。実務上は役員退任後速やかに支給するのが一般的ですが、場合によっては分割払いや年金払いをすることもあります。
なお、役員退職金を支給する際には会社法に基づいて、株主総会での決議を経なければなりません。必要なプロセスを飛ばすと、税務調査を受けた際に指摘を受ける恐れがあるため注意が必要です。
日本企業型確定拠出年金センターでは、企業型確定拠出年金制度の導入をサポートしています。柔軟性が高い役員退職金制度の導入を検討している方は、お気軽にお問い合わせください。
企業様の状況をヒアリングしたうえで、最適な制度をご提案させていただきます。退職金制度の専門家として、これまでに1,300社以上の導入を支援してきた実績があるため、疑問や不安があれば何でもお聞きください。
よくある質問(FAQ)
Q 会社の資金が足りない場合、分割払いはできますか?
A はい、可能です。
ただし、支払期間が長すぎる(5年〜10年以上など)と、税務署から「退職金」ではなく「年金(雑所得)」とみなされ、税金が調整される可能性があるため、おおむね3年程度で払い終えるのが目安です。
Q 社長が勝手に退職金の額を決めて支払ってもいいですか?
A いいえ、原則として「株主総会の決議」が必要です。
勝手に支払うと、税務署から経費(損金)として認められないリスクがあるため、必ず株主総会を開き、議事録を残しましょう。










