選択制DC導入のメリット・デメリットを解説!手続きの流れや注意点も
選択制DC(選択制確定拠出年金)は、企業にとっては社会保険料の負担軽減、従業員にとっては税制優遇を受けながら資産形成ができるメリットがある制度です。
しかし、導入手続きや将来の社会保障給付への影響など、事前に把握すべきデメリットや注意点も存在します。
この記事では、選択制DCの基本的な仕組みから、企業側・従業員側それぞれのメリットとデメリット、具体的な導入手続きの流れ、よくある質問までを網羅的に解説します。
この記事の監修
株式会社日本企業型確定拠出年金センター
執行役員 企業型DC導入支援グループマネージャー
石黒充顕
- DCプランナー2級
- AFP(2級ファイナンシャル・プランニング技能士)
- 企業年金管理士
- 確定拠出年金ガイド(SBI Benefit Systems認定資格)
- 情報セキュリティマネジメント試験合格
- 知的財産管理技能検定3級
- グーグルデジタルワークショップ修了
- 給与計算実務能力検定2級
日本企業型確定拠出年金センターの立ち上げから事業化に関わり、自身も400社以上の企業に企業型DCを導入している。商工会議所や工事組合をはじめ多数の税理士法人で職員向け及び顧客向けにセミナーを実施している。
自身の出演するYouTube『DCチャンネル』は専門チャンネルでありながら9,000名を超える登録者を誇っている。
NewsPicksやヒロ税理士、マキノヤ先生など動画出演も多数している。

目次
選択制DC(企業型確定拠出年金)とは?給与の一部を掛金にする仕組みを解説
選択制DCとは、企業型確定拠出年金(企業型DC)の一種で、従業員が自身の給与の一部をそのまま給与として受け取るか、あるいは掛金として拠出して将来のために積み立てるかを選択できる制度です。
「選択型DC」とも呼ばれます。
企業は多くの場合、「ライフプラン手当」や「キャリアデザイン手当」といった名目で給与の一部を切り出し、従業員はその手当分を給与に上乗せして受け取るか、掛金として確定拠出年金の口座で運用するかを決めます。
従業員の選択を尊重しつつ、老後の資産形成を支援する仕組みとして導入されています。

【企業向け】選択制DCを導入するメリット
企業が選択制DCを導入する主なメリットは、コスト削減と人材確保の二つの側面に集約されます。
従業員が給与の一部を掛金として拠出することを選択すると、会社の社会保険料負担が軽減される直接的な金銭的メリットがあります。
また、従業員の資産形成を支援する福利厚生制度として、採用市場での競争力を高め、優秀な人材の獲得や従業員の定着率向上にも寄与します。
会社の追加負担なしで退職金制度を構築できる点も大きな魅力です。
社会保険料の会社負担分を軽減できる
従業員が給与の一部を掛金として拠出することを選択した場合、その掛金額は給与と見なされず、社会保険料の算定基礎となる標準報酬月額から除外されます。
標準報酬月額が下がることにより、健康保険料や厚生年金保険料、介護保険料などの社会保険料が減額され、労使折半で負担している会社側の支払いも軽減される効果があります。
例えば、掛金額によっては標準報酬月額の等級が1つ下がるケースもあり、対象となる従業員が多ければ多いほど、会社全体のコスト削減効果は大きくなります。
福利厚生の充実で採用力の強化や従業員の定着につながる
従業員の老後の資産形成を会社が支援する選択制DCは、魅力的な福利厚生制度として機能します。
特に将来への資産形成に関心が高い若年層や中堅層にとって、このような制度の有無は企業選択の重要な要素となり得ます。
採用活動において他社との差別化を図ることで採用力を強化できるほか、既存の従業員にとっても満足度の向上や会社へのエンゲージメント強化が期待できます。
結果として、優秀な人材の流出を防ぎ、従業員の定着率を高める効果も見込めます。
会社の追加拠出なしで退職金制度を構築できる
選択制DCは、従業員の給与の一部を原資として掛金を拠出する仕組みのため、会社が新たに資金を準備することなく退職金・年金制度を導入できます。
従来の確定給付企業年金(DB)のように、会社が将来の給付額を約束し、そのための積立不足リスクや資産運用のリスクを負う必要がありません。
財務的な負担を抑えつつ、従業員に資産形成の機会を提供できるため、特に退職金制度がまだない中小企業にとっては、導入のハードルが低い制度といえます。
これにより、コストをかけずに福利厚生を拡充することが可能です。
【企業向け】選択制DC導入で注意すべきデメリット
選択制DCの導入はメリットばかりではありません。
企業側には、制度を適切に運営するための義務とコストが発生します。
特に、給与体系の変更に伴う就業規則や給与規程の改定といった法的な手続きは必須です。
また、確定拠出年金法に基づき、従業員に対して継続的な投資教育を実施する義務も負います。
さらに、制度の運営を委託する金融機関へ支払う管理手数料も発生するため、これらのデメリットや負担を事前に理解しておくことが重要です。

就業規則や給与規程の変更手続きが必要になる
選択制DCを導入するには、給与の一部を「ライフプラン手当」などの名目で切り出すため、給与規程の変更が不可欠です。
この手当を給与として受け取るか、掛金として拠出するかを選択する旨を明記する必要があります。
また、この制度を退職金制度として位置づける場合には、退職金規程など就業規則の変更も伴います。
これらの規程変更を行う際は、労働組合または従業員の過半数代表者の意見を聴取し、変更後の就業規則を労働基準監督署へ届け出る法的な手続きを踏まなければなりません。
従業員への継続的な投資教育を実施する義務がある
企業(事業主)は、確定拠出年金法に基づき、加入者である従業員に対して継続的に投資教育を行うことが義務付けられています。
この投資教育には、制度の仕組みに関する説明だけでなく、資産配分やリスクとリターンの考え方、金融商品の選び方といった、資産運用に関する基礎知識の提供が含まれます。
制度導入時の一時的な説明だけで終わるのではなく、その後も定期的に情報提供を行い、従業員が自己責任のもとで適切な資産運用ができるよう支援し続ける必要があります。
制度運営に関する管理手数料が発生する
選択制DC制度を運営するためには、運営管理業務を委託する金融機関に対して所定の手数料を支払う必要があります。
手数料の内訳は、制度導入時にかかる初期費用、毎月の口座管理手数料、資産の移換や給付が発生した際の手数料など多岐にわたります。
これらの費用は、一般的に会社が負担することになるため、制度運営のランニングコストとして予算化しておかなければなりません。
手数料の体系や金額は金融機関によって異なるため、複数の機関を比較検討し、コストとサービス内容のバランスを見極めることが肝心です。
【従業員向け】選択制DCに加入するメリット
従業員が選択制DCに加入する最大のメリットは、税制上の優遇措置を受けながら効率的に老後資金を準備できる点です。
拠出した掛金は全額が所得控除の対象となるため、毎年の所得税や住民税の負担が軽くなります。
また、通常は課税対象となる投資の運用益が非課税となるため、複利効果を最大化しながら資産を育てることが可能です。
こうした税制メリットを活用することで、普通に預貯金や投資を行うよりも有利に資産形成を進められます。

掛金が全額所得控除の対象になり税負担が軽くなる
選択制DCで拠出した掛金は、全額が小規模企業共済等掛金控除の対象となり、その年の課税所得から差し引かれます。
これにより、所得税および住民税が軽減されるため、実質的な手取り収入への影響を抑えながら積立投資ができます。
例えば、課税所得300万円(所得税率10%、住民税率10%)の人が月2万円(年24万円)を拠出した場合、単純計算で年間約4.8万円の節税効果が期待できます。
拠出できる掛金には法令上の上限額が設定されており、他の企業年金の有無によって金額は異なります。
運用で得た利益が非課税で再投資される
通常、投資信託などの金融商品で得た分配金や売却益には、20.315%の税金が課されます。
しかし、選択制DCの口座内での運用によって得られた利益はすべて非課税となります。
利益に税金がかからないため、得られた収益をそのまま次の投資に回すことができ、資産が雪だるま式に増えていく複利の効果を最大限に活かせます。
この非課税メリットは、特に長期にわたる資産形成において大きな差を生む要因となり、効率的に資産を増やす上で非常に有利な仕組みです。
iDeCoより手数料を抑えて資産形成ができる場合がある
個人で加入するiDeCo(個人型確定拠出年金)では、加入時の初期費用や毎月の口座管理手数料などをすべて自己負担する必要があります。
一方、企業型DCである選択制DCでは、これらの手数料の多くを会社が負担してくれるのが一般的です。
そのため、従業員はiDeCoに加入するよりも低いコストで資産形成をスタートさせることが可能です。
手数料は長期的に見ると運用成果に大きく影響するため、会社負担によってコストを抑えられる点は、従業員にとって大きなメリットと言えます。
【従業員向け】加入前に確認したい選択制DCのデメリット
選択制DCへの加入は、将来の資産形成に有効な一方、見過ごせないデメリットも存在します。
掛金を拠出することで給与が減少し、それを基に計算される社会保険料が下がるため、将来の厚生年金額や、病気・休業時にもらえる手当が減る可能性があります。
また、積み立てた資産は老後資金としての性格上、原則として60歳まで引き出せないという厳しい制約もあります。
これらのデメリットを理解した上で、加入の判断をすることが不可欠です。
将来受け取る厚生年金の金額が減少する可能性がある
選択制DCの掛金は社会保険料の算定基礎となる標準報酬月額から除外されるため、毎月支払う厚生年金保険料が安くなります。
しかし、これは同時に、将来受け取る老齢厚生年金の金額が、掛金を拠出しなかった場合と比較して減少することを意味します。
老齢厚生年金の受給額は、現役時代に納めた保険料の総額に基づいて計算されるためです。
税制優遇による目先のメリットと、将来の年金受給額の減少という長期的なデメリットを天秤にかけ、自身のライフプランに照らし合わせて慎重に判断する必要があります。
傷病手当金や出産手当金など社会保険の給付額が減ることがある
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選択制DCの掛金を拠出すると標準報酬月額が下がるため、その影響は老齢年金だけに留まりません。
健康保険から支給される傷病手当金や出産手当金、雇用保険から支給される育児休業給付金や介護休業給付金といった、病気や休業時の公的なセーフティネットの給付額も減少する可能性があります。
これらの給付額は、休業前の給与(標準報酬月額)を基に算出されるためです。
特に、近い将来に出産や療養の可能性がある場合は、これらの給付額が減るリスクを十分に考慮することが重要です。
積み立てた資産は原則60歳まで引き出せない
選択制DCを含む確定拠出年金は、老後の生活資金を確保することを目的とした制度です。
そのため、積み立てた年金資産は、原則として60歳になるまで引き出すことができません。
これは最大の注意点の一つであり、途中で住宅購入資金や子供の教育費など、まとまったお金が必要になったとしても、解約して現金化することは不可能です。
掛金を設定する際は、あくまで長期的に使う予定のない余裕資金の範囲内で行い、日常生活やライフイベントに必要な資金は別途確保しておく必要があります。
【担当者向け】選択制DCの導入手続きを5ステップで解説
企業の人事労務担当者が選択制DCを導入する際には、計画的かつ法的な手続きに沿って進める必要があります。
まず、制度運営を委託する金融機関を選定し、次に従業員代表の同意を得て規約を作成、厚生労働省の承認を受けます。
その後、給与規程などの社内規程を変更し、従業員への説明会を実施して制度内容を周知します。
最終的に、従業員からの加入申し込みを取りまとめ、掛金の拠出を開始するという流れになります。
各ステップを着実に実行することが円滑な導入につながります。

ステップ1:運営管理機関の選定と比較
最初に、制度の記録関連運営管理や運用商品の選定・提示を行う運営管理機関(金融機関)を選びます。
銀行、証券会社、保険会社などが候補となり、各社で手数料体系、提供される運用商品のラインナップ、従業員向けのサポート体制などが大きく異なります。
複数の機関から提案や見積もりを取り寄せ、自社の規模や従業員のニーズに最も適したパートナーを選定することが重要です。
手数料の安さだけでなく、投資教育の充実度やウェブサイトの使いやすさなども比較検討のポイントとなります。
ステップ2:労使合意と規約の作成・承認申請
運営管理機関が決まったら、制度の導入について労働組合または従業員の過半数を代表する者から同意を得る「労使合意」の手続きを行います。
この合意は、確定拠出年金制度を開始するための必須要件です。
労使合意に基づき、掛金の上限額や加入資格、運用商品の選定方針といった制度の骨格を定めた「企業型年金規約」を作成します。
完成した規約は、必要書類を添えて管轄の地方厚生局に提出し、厚生労働大臣の承認を受けることで、法的に有効な制度となります。
ステップ3:就業規則・給与規程の変更と周知
選択制DCの導入は給与制度の変更を伴うため、就業規則および給与規程の改定が必要です。
「ライフプラン手当」のような新たな手当を設け、従業員がその手当の受け取り方を選択できる旨を明記します。
退職金制度として位置づける場合は、退職金規程の変更も必要です。
変更した規程は、所轄の労働基準監督署への届出が義務付けられています。
また、改定後の内容は、社内掲示板やイントラネットなどを利用して全従業員に周知しなければなりません。
ステップ4:従業員への制度説明会の実施
厚生局から規約の承認が得られた後、全従業員を対象とした制度説明会を開催します。
この説明会は、従業員が制度の仕組みやメリット・デメリットを正しく理解し、加入するかどうかを自らの意思で判断できるようにするために不可欠です。
制度の概要、税制優遇、将来の社会保障給付への影響、掛金や運用商品の選択方法などを分かりやすく説明します。
専門的な内容も含まれるため、運営管理機関の担当者に講師を依頼して実施するのが一般的です。
ステップ5:加入手続きと掛金拠出の開始
説明会を経て、加入を希望する従業員から加入申出書を回収します。
従業員は加入の意思表示と同時に、毎月の掛金額や最初に購入する運用商品を決定します。
会社は、これらの情報をとりまとめて運営管理機関に提出し、従業員ごとの年金口座を開設します。
その後、給与計算システムに掛金控除の設定を行い、初回の給与支払い日から掛金の拠出を開始します。
これにより、選択制DCの導入手続きは一通り完了し、本格的な運用がスタートします。
選択制DCの導入に関するよくある質問
選択制DCの導入を検討する企業担当者や、加入を考える従業員からは、制度の細かい点について多くの質問が寄せられます。
特に、iDeCoとの併用可否や、類似制度であるマッチング拠出との違い、退職・転職時の資産の取り扱いなどは、多くの方が疑問に思うポイントです。
ここでは、そうした選択制DCに関するよくある質問について、簡潔に解説します。
正しい知識を持つことで、制度をより有効に活用するための判断がしやすくなります。
選択制DCとiDeCo(個人型確定拠出年金)は併用できますか?
はい、併用できます。
会社の企業型年金規約でiDeCoへの加入が認められていれば、選択制DCに加入しながらiDeCoを利用することが可能です。
ただし、選択制DCの掛金額とiDeCoの掛金額の合計が、法律で定められた企業型DCの拠出限度額(他の企業年金がない場合、月額5.5万円)を超えない範囲での拠出となります。
2022年の法改正により、原則として企業型DC加入者もiDeCoに加入できるようになり、併用のハードルは下がりました。
マッチング拠出との違いは何ですか?
掛金の原資と社会保険料への影響が異なります。
選択制DCは給与の一部を原資として掛金を拠出するため、拠出分は社会保険料の算定基礎から外れます。
一方、マッチング拠出は、会社が拠出する事業主掛金に、従業員が自身の給与から掛金を上乗せする制度です。
この上乗せ分は給与と見なされるため、社会保険料の算定基礎に含まれ、社会保険料は減少しません。
また、マッチング拠出の掛金は事業主掛金額を超えられないという制約もあります。
退職や転職をする場合、積み立てた資産はどうなりますか?
積み立てた年金資産は持ち運び(ポータビリティ)が可能です。
会社を退職しても資産がなくなることはありません。
転職先に企業型DC制度があれば、その制度に資産を移換して運用を続けられます。
転職先が企業型DCを導入していない場合や、自営業者になる場合は、iDeCoに資産を移換することで運用を継続します。
原則として現金で受け取ることはできず、60歳以降の受給開始年齢まで運用を続けることになります。
まとめ
選択制DCは、企業側には社会保険料の負担軽減や福利厚生の充実による人材確保といったメリットをもたらし、従業員側には税制優遇を活用した効率的な資産形成の機会を提供します。
一方で、企業は規程変更や投資教育などの運営義務を負い、従業員は将来の厚生年金や社会保険給付が減少する可能性というデメリットを理解する必要があります。
導入を検討する企業も、加入を判断する従業員も、双方のメリットとデメリットを正しく比較衡量し、それぞれの状況に合わせた最適な選択をすることが求められます。



