企業型確定拠出年金(企業型DC)は70歳まで加入・運用するメリットは?iDeCoにも触れつつ解説します
2022年の法改正により、確定拠出年金(DC)制度の加入可能年齢や受給開始時期の選択肢が大きく広がりました。 これまで「60歳で受け取るもの」というイメージが強かった企業型DCですが、現在は規約により70歳未満まで加入(積み立て)が可能になり、受取開始も75歳まで後ろ倒しができるようになっています。(※iDeCoは原則65歳未満まで加入可能、今後70歳未満への延長も検討されています。)
しかし、「70歳まで続ける」といっても、「掛け金を出し続けること」なのか、「受け取りを待って運用だけ続けること」なのかによって、メリットや注意点は全く異なります。
この記事では、上司や専門家からも指摘されやすい「積み立て」「運用」「受給」の違いを整理し、70歳まで企業型DCを活用する際の正しい知識とメリット・デメリットを解説します。
この記事の監修
株式会社日本企業型確定拠出年金センター
執行役員 企業型DC導入支援グループマネージャー
石黒充顕
- DCプランナー2級
- AFP(2級ファイナンシャル・プランニング技能士)
- 企業年金管理士
- 確定拠出年金ガイド(SBI Benefit Systems認定資格)
- 情報セキュリティマネジメント試験合格
- 知的財産管理技能検定3級
- グーグルデジタルワークショップ修了
- 給与計算実務能力検定2級
日本企業型確定拠出年金センターの立ち上げから事業化に関わり、自身も400社以上の企業に企業型DCを導入している。商工会議所や工事組合をはじめ多数の税理士法人で職員向け及び顧客向けにセミナーを実施している。
自身の出演するYouTube『DCチャンネル』は専門チャンネルでありながら1万人を超える登録者を誇っている。
▶DCチャンネルはこちら
https://www.youtube.com/@ndc-center
NewsPicksやヒロ税理士、マキノヤ先生など動画出演も多数している。

1. 【前提知識】「70歳まで運用」には2つの意味がある
① 加入者として「積み立て」ながら運用する
企業が規約で「70歳までの加入」を認めており、かつご自身も会社に在籍(厚生年金被保険者)して働き続けている状態です。
状態: 毎月掛け金が拠出され、資産が増えていく。
メリット: 掛金の課税対象外(節税)が継続し、退職金としての非課税枠(退職所得控除)も増える。
② 運用指図者として「運用のみ」行う
退職などで掛け金の拠出は終了したが、すぐに受け取らず、口座に資産を置いて投資信託などで運用を続けている状態です。
状態: 新たな掛け金は増えないが、残高を運用して増減させる。
メリット: 運用益非課税の恩恵を受け続け、受け取るタイミングを市況に合わせられる。(※退職所得控除の枠は増えません)
このように、同じ「70歳」というキーワードでも、現役でバリバリ働いて積み立てているのか、リタイアして運用だけ続けているのかで状況は異なります。次章からそれぞれのメリットを解説します。
2. パターンA:70歳まで「加入・積み立て」を続けるメリット
勤務先が導入している企業型DCの規約で「資格喪失年齢」で設定されており、60歳以降も継続雇用などで働く場合、最長70歳まで「加入者」として積み立てを継続できます。
所得税・住民税の軽減効果が続く
企業型DCのマッチング拠出やiDeCoを利用している場合、拠出した掛け金は「全額所得控除」の対象です。 60歳以降も給与所得がある場合、積み立てを続けることで現役時代同様に税金の負担を軽減できます。
「退職所得控除」の枠を最大化できる
ここが最大のポイントです。退職金を一時金で受け取る際の非課税枠(退職所得控除)は、原則として「勤続年数(掛け金を拠出した期間)」によって計算されます。
60歳で積み立て終了して受け取る場合: 勤続年数は60歳時点でストップ。
70歳まで働き、積み立ててから受け取る場合: 勤続年数が10年プラスされる。
勤続年数が20年を超える場合、1年あたり70万円も控除枠が増えます。つまり、10年長く加入すれば「700万円分」も非課税枠が増加し、手取り額が大きく増える可能性があります。※別途、会社の退職一時金などを受け取っている場合、控除額の調整が行われることがあります。
3. パターンB:積み立て終了後、70歳まで「運用のみ」継続するメリット
次に、60歳や65歳で退職して掛け金の拠出は終わったものの、すぐには受け取らずに「運用指図者」として資産を持ち続けるケースです。 ※注意:この期間は勤続年数には含まれないため、退職所得控除額は増えません。
非課税で資産を増やせるチャンスが続く
通常、投資で得た利益には約20%の税金がかかりますが、確定拠出年金内であれば運用益はすべて非課税です。 60歳時点ではまだ資産を使う予定がない場合、あえて受け取らずに70歳頃まで非課税運用を続けることで、複利効果により老後資金をさらに増やせる可能性があります。
「元本割れ」からの回復を待てる
もし60歳の退職タイミングで「リーマンショック」のような暴落が起きていた場合、その時点で受け取ると損が確定してしまいます。 受取時期は75歳まで選べるため、「今は市場が悪いから、相場が回復するまで数年待ってから受け取る」という柔軟な出口戦略をとることができます。
4. 70歳前後で活用したい「公的年金の繰下げ」とDCの関係
「70歳までDCに関わる」といっても、必ずしも運用し続けることが正解ではありません。ここでは、あえて「DCを先に受け取る」ことで、公的年金を増やす戦略を紹介します。
企業型DCをつなぎ資金にして、公的年金を「繰下げ受給」する
公的年金(老齢基礎年金・老齢厚生年金)は、受取開始を65歳から遅らせる(繰下げる)ことで、1ヶ月あたり0.7%受給額が増額されます。70歳まで繰下げれば42%増額となります。
しかし、繰下げ待機期間中は公的年金が入ってきません。そこで役立つのが確定拠出年金です。
60代前半~後半: 企業型DCの資産を(一時金や分割で)受け取り、生活費に充てる。
70歳以降: 増額された公的年金の受給を開始する。
このように、DCを「運用し続ける」のではなく、「公的年金を増やすための生活費(つなぎ資金)」として計画的に取り崩すことも、非常に有効な選択肢です。
5. 70歳まで確定拠出年金に関わる場合の3つの注意点
長期的な関わりにはメリットが多い反面、注意すべきコストやリスクもあります。これらは自身のステータス(加入者か運用指図者か)によって異なります。
① iDeCoの場合は手数料負担が続く
企業型DCの場合、運営管理手数料は事業主負担であることが一般的ですが、iDeCo(または企業型を辞めてiDeCoに移管した場合)は、「運用指図者(積み立てなし)」であっても口座管理手数料がかかり続けます。 運用益が出ていなければ、手数料の分だけ資産が目減りしていくことになるため注意が必要です。
② 元本割れリスクにさらされ続ける
運用期間を延ばすということは、それだけ長く市場変動リスクに資産をさらすことを意味します。 70歳で受け取ろうと思っていた直前に大暴落が起きる可能性もゼロではありません。受け取り目標時期が近づいたら、株式中心のハイリスク商品から、定期預金などの「元本確保型」商品へ資産配分を移す(スイッチング)などの対策が重要です。
③ 「資金のロック」期間を確認する(加入者の場合)
これは「パターンA(加入継続)」の方への注意点です。 積み立て(加入)を継続する場合、原則としてその間は資産を引き出すことができません(老齢給付金を受け取れない)。 「70歳まで積み立てる」と決めた場合、急な病気やケガでお金が必要になっても、DC資産はあてにできないため、手元の預貯金には十分な余裕を持たせておく必要があります。
6. まとめ
企業型DCを70歳まで活用する場合、その方法は大きく3つに分かれます。
・働きながら積み立てる(加入): 所得税の節税と、退職所得控除枠の拡大メリットがある。
・運用だけ続ける(指図): 非課税メリットを活かし、受け取りタイミングを調整できる(控除枠は増えない)。
・先に取り崩す(受給): 公的年金の繰下げ受給(増額)を実現するための資金にする。(※受給を開始するには、規約上の年齢到達や退職等により加入者資格を喪失する必要があります)
「とにかく長く運用すればお得」というわけではありません。 ご自身のこれからの働き方(いつまで働くか)、公的年金の受給戦略、そして手元の預貯金額を総合的に考え、「積み立てるのか」「運用だけ残すのか」「受け取るのか」を使い分けることが大切です。
日本企業型確定拠出年金センターでは、企業担当者のみなさまに、導入に関する個別相談を無料で行っています。制度設計に関するご相談も承っていますので、ぜひ一度お問合せください。
よくある質問
Q 従業員が70歳まで働ける会社なら、自動的に70歳までDCに加入できますか?
A いいえ、自動ではありません。
企業型DCの規約(ルール)で、加入者の資格喪失年齢を「70歳」に設定している必要があります。
Q 70歳まで運用(指図)のみを行った場合、退職金としての税金はどうなりますか?
A 運用のみを行っていた期間は「勤続年数」に含まれないため、60歳(または退職時)時点の勤続年数で退職所得控除額を計算します。
Q 役員も企業型DCに70歳まで加入できますか?
A はい、厚生年金被保険者であれば役員も加入可能です。
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